発達障害の視点を取り入れた「mahoraノート」ができるまで
2022年4月2日の世界自閉症啓発デーの日に初めて開催した「ハッタツソンフェス2022」では「民間企業初の取り組み紹介」として、発達障害の視点を取り入れられた「mahoraノート」を制作する大栗紙工株式会社の大栗 佳代子さんと発達障害の当事者としてノートの制作協力を行ったOffice UnBalanceの元村 祐子さんに登壇していただき、ノートがどのような過程で作られたか対談形式でお話ししていただきました。本記事では当日お話しされた内容の書き起こしをお届けします。
元村さん:
では、私から自己紹介をさせていただきます。Office UnBalanceの代表の元村祐子です。私自身が発達障害の当事者で親の立場でもありまして、当事者としてピアサポートの活動を10年ほどしております。
今回、mahoraノートを作るにあたって最初のホストシップをさせていただきましたので、今日は大栗さまと一緒にお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
大栗さん:
こんにちは、大栗紙工株式会社の大栗佳代子と申します。
元村さん:
大栗さん、今日はよろしくお願いいたします。
大栗さん:
よろしくお願いいたします。
大栗さんと元村さんの出会い
元村さん:
大栗さんとの出会いは、3年前になりますね。
大栗さん:
そうなりますね。
大栗さん:
プレスリリースに関するセミナーに参加させていただいて、講師の先生とお話しさせていただいた時に、私がノートを作っている会社だということ、を伝えると「そしたらノートを作っている人に少し話しを聞いてもらいたい」と言われ、それがきっかけでmahoraノートを作っていくことになりました。
元村さん:
私の方はですね、普段は施設とかいろんな所で発達障害の啓発に関わることをしていまして、同じ講師の方に「元村さんノートを使っていて困ったことないですか?」という質問が来たのが第一声です。
普段感じていたノートの不満を困り事として捉えてもらった
元村さん:
「ノートを使っていて困ること」と言われて、私の立場で言うのもなんですけど、ノートってそれしかないものやし、困り事と言われてもなぁという感じで強いていえばという感じで、講師の方になんでも良いからと言われて、文句をつけるみたいな感じで「糸くずのちょろっと出てるのはいらんねん」とか「左側のページは一番右端までいったら手が当たるから嫌やねん」とか文句ばっかりを言うてたわけです。
その文句が、私たち発達障害の当事者にとっての困り事として捉えてくださって「発達障害の人でも使いやすいノートを作ろうかなって仰ってくださる企業さんがいるから会ってみませんか?」と言われて、大栗さんを紹介していただいた。それが3年前です。
大栗さん:
そうでしたね。
元村さん:
ちょうどグリーンノートという白い紙だと見づらい人向けのノートが話題になっていた時期でした。
大栗さん:
そうですよね。
元村さん:
初めてお会いした時にそのノートを持ってこられてましたよね。
感覚過敏のある人に使いやすいノートが売れていると、お持ちいただいているノートを見て私は「これは買わない」とすぐに申し上げました。
大栗さん:
そうですよね。
そこからほんとに使いやすいノートを一緒に考えていくことになりました。
普通のノートを使いづらいと感じている人がいてることを知って衝撃を受けた
大栗さん:
いろいろとお話しを聞いていくと、そんなにも普通のノートは使いにくいのかというのを知ることができて衝撃を受けました。
こんなにも普通のノートを使いづらいと思っていらっしゃるなら、使いやすいノートを作ってみたいな気持ちになりました。
元村さん:
その思いからスタートしてから本当に大栗さんは発達障害という事自体の事をすごい勉強してくださいましたよね。
大栗さん:
ほんとにまだ表面だけしか分かってないんですけども、こんなにもいろんな特性を持っている方がいる事にまず驚きました。
本当にいろんな困り事を持っておられたり、その人その人で困り事が違うという事であったりというのが分かって、お話しを聞けば聞くほど発達障害と言っても人によって全然特性が違うんだなということが分かりました。
元村さん:
ありがとうございます。
当時私が、発達障害のある人の居場所として運営をしていたスペースにも大栗さんはお越しいただきましたよね。
その時に「本当にこの人たちって障害があるんですか?」って質問をいただいたのが、私にとってはすごく衝撃的で、やっぱり私たち当事者っていうのは見えづらい障害を持っているんだなって本当にそう思いました。
大栗さん:
そんなに普通に見えるって言ったらおかしいですけど、普段接しているような人たちばかりだけどこんなに様々な困り事を抱えているんだなって思いました。
やはり、外から見た時はわからない部分があるんだなって思いました。
使いづらいと感じる人がいるなら少しでも使いやすいノートを作りたい
元村さん:
発達障害っていう少数派の困り事を商品化するというのをよくぞ決めていただいたなと思うんですけど、それは何かきっかけと決定的な何かはあったんですか?
大栗さん:
私たちは何の偏見もなく毎日普通のノートを普段作っていてて、それが使いにくいと思っている方がいらっしゃるということに気づきもしないで過ごしてきていて、その時に「ノートのこういう部分が使いにくい」と仰っていて、使いづらい状態でずっと使ってもらうのはちょっと違うなというのがあるので、それなら少しでも使いやすいなと思って使っていただけるノートを作ることができれば嬉しいな、という気持ちが一番強くあって作り始めました。
そこからが大変で、どう作ったらいいかわからなかったので本当に試行錯誤をしたりと元村さんのご協力がなければ進まなかったなと私は思っています。
元村さん:
ありがとうございます。
私たち発達障害当事者の困り事って社会全体で見ると少数派です。実はすごくノートを使っていて困っている方がおられます。その少数派の意見、困り事っていうのは例えば、ノートを実際に作られていて販売される方って儲けようとされていることですよね。
少数派の意見や困り事を取り入れたノートってそんなに売れるのか、使ってくれるのかという不安もあったと思うんです。それでも作ろうって思って実際にされたのがすごいなって思います。
大栗さん:
そうですね。これはでも最初は儲けようとかそういうところは考えてなかったですね。
そういうことを考えずに試しに作ってみようということで2種類、3000冊ずつの合計6000冊ということで、テスト販売をしようと考えたので儲かったとか儲からないとか、そういうことは除外してまずは作ってみようと、そこからのスタートでした。
元村さん:
スタートはそうだったんですね。
大栗さん:
そうですね。
100名の発達障害当事者の声を集め打ち合わせや当事者による検討会を重ねる
元村さん:
そこから、私個人ではなく私と同じような発達障害の当事者はどういったノートの使いづらさがあるのかを調べるために、アンケートを100名くらいの当事者の方にされましたが正直どうでしたか?
アンケートには選択欄があってその他にも自由記述の欄もあったと思うんですけど、本当にみんな好き勝手に意見を書いてくれてたと思うんですけど書いてあることがバラバラすぎて、言いたいことを、言いすぎて整理するのがお困りだったんじゃないかなと思うんですけど、振り返ってみていかがでしたか?
大栗さん:
本当にそれは丁寧に思いの丈を書いてくださっているなと思いながら、楽しみながらしっかりと読ませていただきました。実際にノートにしようと思ったらどういったところをピックアップしたら良いのか、というのをアンケートを見れば見るほどどうしようと思うのが正直あったんですけど、一番最初の話にさせて頂いた時にノートに関する困り事というのがアンケートにもいっぱいあって、このアンケートを元に進めて行きたいなと思いました。
そこからまずは紙の色を改良しようかというところが、本当に一番最初に進めていったところでした。
元村さん:
サンプルも13色用意してくださっていろんな色を試していただけましたよね。
そして見事に断トツでレモンとラベンダーが選ばれて私もいろんな方に見ていただいて、どこの発達障害関係の団体さんに行ってもやっぱりラベンダーとレモンの色が選ばれるのって面白いなと思って。
大栗さん:
ほんと、そうですよね。
元村さん:
いろんな当事者の方と話しをしていくと「そうそう」って気づきがあり、私たちって例えば今回はノートですけど、世の中のいろんなこと、いろんなものに対して、無意識に我慢しちゃってるなっていうことに私は気づけたんですね。
これはこういうものだから私たちが我慢しないと仕方がない、と思いながら生きているんだなと凄く痛感したんです。
ノートを作っていくなかでほんとにいろんなやりとりをさせていただいて、丁寧にたくさんのサンプルを作っていただきながら進められて行けたのがほんとによかったなって思います。
大栗さん:
そうですよね。
元村さん:
筆箱に入る15cmのモノサシでも縦線が綺麗に引けるようにっていうのが凄くよくて感動しましたね。
私、そこは凄くこだわりがあって、少し線が、歪むのが嫌なんですよ。なので、そういったところまで凄く細やかに作っていただいたり、ノートの表紙のデザインも凄くよく作ってくれましたよね。
大栗さん:
そうですね。真ん中のところに印を付けたっていうのは、やっぱり私たち自身も真っ直ぐ線を引きたいんだという思いがありましたし、ノートの上部と下部の印が付いている部分って線は引きづらいなと思っていて、真ん中に印を付けたらモノサシを当てて線を引きやすいよねってという発想で付けてみたら、それを喜んでいただけたのが良かったなという感じだったんです。
元村さん:
本当にいろいろと私たちが走った経験も、さらにそれを乗り越えたところで、いろいろな案を複合してくださったノートが完成して、試作品を最初にいただいた時に、当事者さん以外の人にも見ていただいたんですけども、自分たちが少数派であるもので、私としても少数派なんで、自分たちが我慢をしないといけない、生活があるんですよ。
人生のほとんどがそうそうなんです、というところをアンケートに書かれていてそれがこんな風に形にしてもらえるっていうのが嬉しくて、これは是非、こうしてもらったからには世の中にたくさん出て、いろんな人に手に取ってほしいよねって思います。
「あったらいいな」を目指してmahoraの由来
そのようにしてできたノート「mahora」っていうんですけど、「mahora」ってどういう意味があるんですか?
大栗さん:
いろいろみんなでどんな名前が良いかって話しをしたんですけど、私が考えていたなかで「まほろば」っていう言葉があってこの言葉が元々好きで、この言葉を調べていくうちに「まほろば」の語源となった言葉が「まほら」という言葉だとわかったんですね。
それで「まほろば」とか「まほら」っていう言葉なんですけども「住みやすい」とか「いごこちの良い」とかそのような意味があるということがわかったので、皆さんが心地よく使っていただけるノートでありたいなという気持ちを込めたいなと思い、それで「mahora(まほら)」ってどうかなって相談して、そうしたら、良いんじゃないかということになりまして「mahora(まほら)」という商品名になりました。
元村さん:
「まほろば」の語源は、「まほら」ということなんですね。
大栗さん:
そうなんです。大和言葉で「まほら」っていうのがあって「まほら」の「ら」は優れているという意味があって「ら」にはそこらへんとかを表す「ら」なのでそれで優れている場所という意味になります。
元村さん:
すごい素敵な名前ですよね。すっと耳になじみやすいというか、目で見ても優しい感じで音も優しい感じがしますよね。
大栗さん:
そうですよね。気に入ってこの名前を使ってます。
元村さん:
mahoraノート、最初はラベンダーとレモンの2色だけだったんですけど、そこからカラーやサイズなどのバリエーションが増えていったんですよね。
大栗さん:
そうですね。発売してからSNSでも結構反応があって「mahoraノート作ってくれて嬉しいです」っていう反応もいただいて新聞とかにも取り上げていただいていたので、そこからの反響もすごいありましたね。
元村さん:
一気に広がっていったんですね。
必要としている人に届けていく仕組み「ペイ・フォワードmahoraノートプロジェクト」について
元村さん:
そして、mahoraノートを支援学校とかに寄付をする取り組みも始められたんですよね。
大栗さん:
「ペイ・フォワードmahoraノートプロジェクト」ですね。
元村さん:
この「ペイ・フォワードmahoraノートプロジェクト」について教えてもらっていいですか。
大栗さん:
mahoraノートのオリジナルデザインを作っていただけてるデザイナーさんがいてまして、その方のイラストがある表紙の限定mahoraノートを1冊購入していただくと2冊のmahoraノートを発達障害を中心とした方にプレゼントしていく、というプロジェクトを2021年11月からスタートしました。
元村さん:
これはすごい取り組みですね。
お客さんも実施に参加できる取り組みになっていますし、すでにたくさんの放課後等デイサービスさんなどに届けていけていますよね。
大栗さん:
そうですよね。
このプロジェクトを通じて、いろんな施設や団体さんなどに届けていければなと思います。
様々な用途で使えるようにサイズや罫線などのバリエーションが豊富に
元村さん:
このmahoraノートの商品ラインナップがすごい出来てきていますよね。
大栗さん:
そうですね。最初は2冊だけで種類が少なかったんですけど、お客様のご意見をいただきまして、「手帳サイズはないのか」とか「こういう色はないのか」とかそういったご意見をいただきまして、それでサイズも場面に応じて使えるようなサイズ展開にしようというのと、罫線もそれぞれの種類に合わせて増やした方がいいよねということで増やしました。
大栗さん:
また、色もひとつのサイズにつき3色にしました。それでサイズも4サイズになったので、ノートは全部で24種類を用意しています。
元村さん:
すごい、すごい数ですね。
大栗さん:
そしてノートの中身の紙だけでも使いやすいから中身だけで欲しいという声もあって、それで「できたらファイルのサイズに合うようにA4サイズだったら嬉しい」とかも言われて、そしたらA4のシートタイプも作りましょうということで作りました。
色はノートと同じ3種類で、罫内容は5mm幅・6mm幅・7mm幅の太細交互横罫と8.5mm幅のあみかけ横罫の4種類。サイズは全てA4で合計12種類です。
元村さん:
すごいですね。用途とか好みとかで全部選べますね。
私自身も小さいサイズのを使わせてもらっているんですけど、今までの普通のノートと比べたらすごく書きやすくて使いやすいです。ノートっていろんな年代の人が使うものなので、これだけあると本当にどんな年齢のどんな立場の方も使いやすいですよね。
様々な賞に選ばれる
元村さん:
このmahoraノート、いろんな賞を取られてますよね。本当に受賞歴がすごいですよね。
大栗さん:
ありがとうございます。
緑のが「オルタナサステナブルセレクション2021 二つ星」というのを受賞しましてここはサステナブルな商品に対して賞を出しているところです。mahoraノートがSDGsにも寄与しているということでこの賞をいただきました。
次は第30回「日本文具大賞デザイン部門」優秀賞受賞で、その次は2021年度グッドデザイン賞「グッドデザイン賞ベスト100」受賞をしてその次は大阪製ブランドというのがあるんですけどそちらでも「ベストプロダクト」に認定されました。
その次に「CX AWARD2021」を受賞しました。「文房具屋さん大賞」は、まほらシートにデザイン賞をいただいたということで、良いデザインの一つとして評価をしていただけました。
元村さん:
やはり私も人ごととは思えないくらい凄く嬉しいんですけど、やっぱり私たち発達障害の声から作っていただきましたけど実は、誰にとっても使いやすいというところが、やっぱりどんなことでもそうですけど、私たち発達障害もそうなんですけど、特別扱いをして欲しいわけでもなく、でも私たちは少数派としての困り事って実は他の人にもあることなんじゃないかって思うんですよね。
私たちがわかりやすい、使いやすい仕組みやモノのデザインっていうのは、実は誰にとってもわかりやすいものなんじゃないかと思うんです。
少数派の方の為だけでなく、いろんな方に喜んでいただけるノートに
大栗さん:
他にも「普通にデザインが可愛いから使いたい」って言ってくださる方もいらっしゃって、本当に発達障害とか関係なく「使ってみて使いやすかったから、ずっと使っているよ」って言っていただけることがあるので、普通に使ってほしいなと思っています。
元村さん:
そうですよね。少数派の方の為だけのものっていうのではなくて、いろんな方に喜んでいただける商品になっていますよね。
大栗さん:
そうですね、どんな場面でも使っていただけるっていうのが嬉しいですし、本当は発達障害の困り事から作られたものですけど困り事って発達障害の方だけのものではなくて世の中の全ての方、困ってなくてもニーズがあるというかやっぱり必要とされているものなんじゃないかって思います。
元村さん:
そういう風に言っていただけるのは凄く嬉しいです。
今後何かやろうとされていることがありましたら教えてください。
大栗さん:
多くいただいているのが小学生のお母様方から「小学生にも使いやすいノートを作ってほしい」という連絡をいただいていて、いろいろ試行錯誤をしているところです。
なかなか小学生って1年生から6年生まで使うものが全然違うので、そこら辺でどういう風な形にしていたったら良いのかを考えていて、いまだに現在進行形という感じで作りきれていないんですけども、勉強でノートを使うっていうのは小学校から始まるので、やっぱりその子たちがまた使いたいって思わないのは、心苦しいですよね。だからこそ私自身も使いやすいノートが作れたら良いなと今、思ってやっています。
元村さん:
すごく楽しみです。
やっぱりいろんな立場のいろんな人が選べるっていうのが大事で、今まで私たちも白いノートしかなかったからこんなノートもあるんだ、でも今までのノートも使える人もいますしこのノートにしないといけないという訳じゃなくてみんなが選べるっていうのがいいなと思います。
これからもきっとワクワクするような商品を作っていただけると思うので。
大栗さん:
そう言っていただけると嬉しいです。
元村さん:
今日はどうもありがとうございました。
大栗さん:
ありがとうございました。
mahoraノートの購入はこちら
【関連リンク】
Tweet