新紙幣は使いやすい⁈:ユニバーサルデザインの実現と当事者たちの声


2024年7月に登場した新しい紙幣。ユニバーサルデザインを採用し、誰もが使いやすいよう設計されたということですが、実際にさまざま障害をもつ当事者が使ってみるとどう感じるのでしょう?今回、Ledesoneが主催した座談会では、さまざまな見え方の違いを持つ人々が集まり、新しい紙幣と旧紙幣を比較検証しました。

<座談会参加者>

大西あかねさんを表したイラスト大西 あかね:Ledesone 認定リードユーザー
数の概念や数字理解がわかりにくい特性を持つディスカリキュリア(算数障害)の当事者

ミーさんを表したイラストミー:Ledesone 学生スタッフ
文字の読みづらさがあるディスレクシア(読字障害)の当事者

いっちーさんを表したイラストいっちー:Ledesone デザイナー
ADHDと色の違いの分かりづらさがある当事者

Tenさんを表したイラスト進行役:Ten:Ledesone代表
ディスグラフィア(書字障害)とADHDの当事者

新紙幣と旧紙幣、どっちが使いやすい?

1000円、5000円、10000円の新紙幣と旧紙幣が並んでいる写真

今回の座談会では最初に、みなさんが感じている旧紙幣の使いづらさや新紙幣を見ての感想などを伺いました。文字の読みづらさを感じるディスレクシアがあるミーさんは、旧紙幣に不便は感じておらず、逆に新紙幣のほうが見づらいという意見でした。

ミー:数字の位置が金額によって異なる点が、ちょっと見づらく感じました。旧紙幣は金額が書いてある場所が固定されているので、「ここを見れば数字が書いてある!」というポイントがわかりやすかったんです。新紙幣ではその点が負担で、混乱します。慣れれば色や人物画像で識別できるとは思いますが、お札としては見にくくなったと感じています。

数の概念や数字理解がわかりにくい特性を持つディスカリキュリア(算数障害)の当事者のあかねさんは、新紙幣は旧紙幣より見やすくなり、数字の概念とお札が結びつきやすくなったと語ります。

あかね: 私は逆に旧紙幣の数字が見づらいと感じていました。新紙幣のほうは千円と一万円の「1」の書き方の違いで区別ができるのがいいと思います。

今まで、お札に関しては数字よりも人物で識別していたんです。今回の新紙幣もおそらく、人物で覚えていくことになるとは思うんですが、旧紙幣のほうは「諭吉=一万円」というイメージはあまりなくて。新紙幣は数字が見やすくなっているから、「渋沢栄一=10,000円」というイメージが結びつきやすい。関連付けができる感じがしますね。

「一万円」は読めるし、諭吉が一万円札なのはわかるけど、「一万の意味は何ですか?」と言われて、諭吉の紙幣はすぐに出てこなかった。新紙幣で、数字と人物が並んだお札になってようやく「あ、そういうことか」と理解できました。答え合わせができた気分です。

ADHDと色の違いの分かりづらさがある当事者のいっちーさんは、色味の印象やサイズに変化がないため、新紙幣に対してそこまで具体的に使いにくさなどは感じていないと言います。

いっちー:僕がお札を区別するときに一番重要なのはサイズの違いです。一万円だけ大きいという点が、一番注意しているポイントだと思います。

ただ、今回お札自体のサイズは変わっていませんし、もともとの旧紙幣自体がサイズや色、人物などが違うという考慮がされて作成されているから、今回の新紙幣が特別配慮されているという感覚はあまりないですね。なので、新紙幣が使いにくい!という印象もあまりないです。

新紙幣はどんな点が見やすい、もしくは見づらいと感じる?

新紙幣が複数枚重なるようにして、置いてある写真

新紙幣をじっくり観察し、それぞれが感じる見やすさや、見づらさについて話し合いました。旧紙幣も新紙幣も一万円札、千円札は男性で、五千円だけ女性の肖像画が採用されています。肖像画になる女性の割合が低いことや、描かれている服装の違いなど、さまざまな意見が交わされました。

いっちー:新紙幣で大きく変わったなと感じる点は、アラビア数字になったことと、五千円だけ金額の配置が異なっている点です。 特に金額の数字の配置は、疑問に思っています。

色の見え方の違いとして、僕には一万円だけ違う色に見えて、千円と五千円は似ている色に見えます。そういう場合に、数字の書いてある位置が違うとわかりやすいですよね。その観点からいうと、一万円と千円って数字として似てるじゃないですか。「1」と「0」の組み合わせなので。なのに、なぜ五千円だけ数字の位置を変えたんだろう?という疑問があります。

ミー:私は人の顔を判別するのが得意じゃなくて、細かい部分はよくわからないんです。旧紙幣のほうは、一万円の福沢諭吉と千円の夏目漱石は、髪の毛の量や服装の違いが大きくてわかりやすかったんですが、新紙幣のほうは、なじみがないせいもあるかもしれませんが、千円と一万円の人物画像にあまり大きな違いがないように感じます。二人ともスーツだし、パッと見た時、「顔で見分けられないな、どうしよう」って思いました。

あかね:新紙幣は漢字が苦手な外国人とか、海外から来る観光客にも、数字が大きく書いてあるからわかりやすいと思います。また、識別マークの部分に深凹版印刷が施され、触るとはっきりとざらつきを感じることができるので、視覚障害のある方にもわかりやすいんじゃないかなと思いますね。

裏面を見てみよう!

1000円、5000円、10000円の新紙幣の裏面を写した写真。

続いて、新紙幣の裏面を観察しました。普段あまり意識することがないお札の裏面ですが、しっかりと観察することで新たな発見もありました。

いっちー:あまり意識していなかったけど、そもそも旧紙幣のほうも裏面は海外の方向けのデザインなんですね。「NIPPON GINKO」とローマ字になっているし、「円」の表記も「YEN」になってる。

あかね:新紙幣はふちがついているのが見やすくなった気がします。文字もかなり大きく、はっきりしていて、ユニバーサルデザインだなと感じます。

いっちー:裏面はかなり色が識別しやすいです。一万円が暖色系、五千円が緑っぽくて、千円が青系に見えます。実際の色とは異なるかもしれませんが、それぞれがはっきり違う色味に感じられます。

ミー:私は新紙幣は、裏面のほうが区別しやすいです。色がしっかり違っているのと、数字の配置が同じなのですごくわかりやすいです。自分が実際に使う時は、裏面を見ながら使うことになると思いますね。

ユニバーサルデザインになると海外のお札みたいになる?

1000円、5000円、10000円の新紙幣の表面を写した写真。

新紙幣ではユニバーサルデザインを採用しています。参加者の皆さんに、新紙幣のユニバーサルデザインについてどう感じているかをお聞きしました。

Ten:裏面はなんとなくユーロ札っぽいというか、海外のお札みたいな印象も受けますね。

ミー:新紙幣のデザインを日本っぽく感じないのは、海外の紙幣はすでにユニバーサルデザインの視点を取り入れて変更していたからかもしれませんね。

Ten:ユニバーサルデザインには7原則があります。

  1. 誰にでも公平に利用できること
  2. 使う上で自由度が高いこと
  3. 使用方法が簡単ですぐわかること
  4. 必要な情報がすぐに理解できること
  5. うっかりミスや危険につながらないデザインであること
  6. 無理な姿勢をとることなく,少ない力でも楽に使用できること
  7. アクセスしやすいスペースと大きさを確保すること

使う時の自由度という点では、表面も裏面も使いやすいし、サイズで判断できる。カラーやデザインですぐに判断できる。本当にユニバーサルデザインに準拠していますね。

いっちー:ただ、その原則に合わせすぎて、いままでのお札と違いすぎても困ってしまう人もたくさんいると思います。そこを、いままでの日本のお札感を残したまま、適応させようとするのはめちゃくちゃ大変なことですよね。

だからこだわって変えてないんじゃないかと思える部分もあります。「日本銀行券」や漢数字のフォントの印象を変えていないところとか。ただ、デザイン的な観点からすると、個人的に一万円の「0」と中央の枠が近くて窮屈に感じるのが気になる。

あかね:逆に私は、そこで判別ができるかもしれません。「0」が中央の枠に近いほうが一万円だなって。これで千円と一万円札の「0」の位置が中央の枠と同じ近さだったら、判別が難しくなるような気がします。

数字がずれて配置されているから、パッと見でかなり判別しやすくなっています。逆に裏面のように同じ位置に数字が配置されていると、判別しにくいなと思いました。

まとめ|それぞれの感想

座談会の様子を捉えた写真。
大西あかねさんとミーさんが写っている。

最後に、新紙幣と旧紙幣を比較・観察した今回の座談会についての感想をそれぞれに伺いました。

Ten:今回の座談会を企画するときに、個人的には「ユニバーサルデザインとはいえ、それぞれの困りごとによっては使いづらい部分もあるんじゃないか」と考えていたところもありました。でも、表面や裏面、触感などいろいろな角度からみると、相当いろいろな配慮がなされていて驚きました。これはユニバーサルデザインだなと感じましたね。

いっちー:女性が五千円であること、数字の配置が前々回の紙幣の位置と同じになっていることなどを考えると、意外と、従来の紙幣を踏襲している部分もあるんだなと思いました。意外と斬新さはないのかもしれないと思いました。旧紙幣の表面にあった数字の配置をそろえたりする点も、実はそのまま裏面に反映されていたり。そういったところにすごく好感を持ちました。

僕は今日、新紙幣を初めて見たんですが、実物をこんなにじっくり見ることもなかったですし、旧紙幣も改めて見直すことができて、面白かったです。「誰もが使いやすい」という観点からすると、めちゃくちゃ進化していると思います。

特に自分とは見え方や感じ方が違う人たちと話し合えたのは、すごく楽しかったですし、新たな発見がありました。

ミー:今回初めて新紙幣をしっかり見て旧紙幣と比べることをやってみて、旧紙幣もかなりいろいろな配慮が考えられて作られていたんだなということに気づきました。

最初は新紙幣の表面だけ見て「使いづらいかも」と思ったんですが、そういう人のためにちゃんと裏面では配慮がされていたこともわかりました。さらに「私は今後裏面を使おう」という心づもりもできたので、とても良かったと思います。

あかね:見比べてみると結構違うなと思ったのと、数字の観点からするとすごく見やすくなっていて、やっと「一万円といえば、このお札」というのが紐づけられるようになったと思いました。

あと選択肢が広がったように感じています。表面が使いやすい人は表面で、裏面のほうがいい人は裏面を使えばいいというように、選択肢が幅広くなったように思いました。

今回の座談会の参加者からは、「新旧のお札を比較することで、改めてお札のデザインについて考える良い機会になった」「紙幣デザインがこんなに当時の社会を反映しているとは驚いた」という声も聞かれました。

7月から発行され、普段でも目にする機会が増えてきた新紙幣。手に取った際は、ぜひじっくり観察してみてくださいね。