「発達障害に対して何が出来るのか?」ハッタツソンの自然な助け合いの中で生まれた休憩支援のアイディア
Ledesone(レデソン)では、発達障害の当事者とそうでない方がチームを組み様々な仕組みやサービスを考え作るプログラム「ハッタツソン」を毎年実施しています。「ハッタツソン過去参加者インタビュー企画」では、これまで参加して頂いた方になぜハッタツソンに参加したのか?や参加してみてどのような変化があったかなどをお聞きして紹介します。
今回は、2021年に開催された「ハッタツソン2021」に参加し、休憩支援アプリ「リッスル」というアイデアを生み出し、現在そのアイデア実現に向けて活動されているチーム「ワーカーホリックス」に、ハッタツソンで出会った当事者の声から生まれたアイデアが、どのように発展していったのかについてお話を伺いました。
仲田 真理子(なかた まりこ)
筑波大学・人間系・行動神経内分泌学研究室
神経科学(脳科学)の研究者/大学教員。普段は「他個体と関わるときの行動が脳の中でどのようにコントロールされているか」について研究をしている20代中盤で診断を受けた。ADHD+ASD当事者で、生活の支援を受けながら働いている。
岩佐 幸翠 (いわさ こうすい)
国内メガベンチャーの IT エンジニアを経験したのち、現在は医療系スタートアップにてエンジニアをしている。小学生の頃に広汎性発達障害の診断を受けた。
山口 聖(やまぐち しょう)
フリーランス(人材育成・学校教育)
教育系コンサルティング会社を経て独立。現在はフリーランスで人の個性の凹凸を踏まえた「個の強みの発揮」を軸に、チーム構成や心理的安全性などをテーマにした企業研修、コーチングを実施。 また、学校教育におけるキャリア教育プロジェクトなどへの参画・推進を行う(全国の学校×企業によるオンラインキャリア教育授業など)。 注意欠如・多動症(ADHD)のグレーゾーン。
ハッタツソンに参加していただいた経緯を教えてください。
仲田:
自分自身がASD+ADHDの当事者なので人と話し合って何かを作っていくっていうプロセス自体に中々難しい部分があって、同じ当事者が集まる場で、当事者同士なら上手くできるかもしれないなって思って、チャレンジしてみたかったっていうのが1つです。あと、自分が今作っている「発達障害の薬はじめてガイド」という冊子があり、この本業とはまた違った取り組みをするうえで、当事者が集まって支援の方法を考えるっていうことに純粋に興味があったからです。
岩佐:
私は広汎性発達障害があって、知人とか友人にも結構そういう人が多い中で、どうやったらもっと私たちが働きやすくなるかみたいなところを考える事が多く、参加させて頂きました。
山口:
もともと自分は2020年の時にガッツリとTenさんとの企画みたいなものに入らせて頂いて運営をさせて頂いたのが、元々のハッタツソンとの関わり初めで、2021年度はその中でメンターというような形でお二方のサポートをしていく感じで最初は入っていました。
自分は発達障害の診断はないけれども、ADHDの傾向はあるなと感じていて、そういう特性で自分自身仕事であれこれ工夫はするものの中々うまく行かずに悩んでいた時期に、悩んでいたからこそ発達障害というものに人の個性を考える何かがあるように感じていました。そういったタイミングで、Tenさんとお話する機会があり、発達障害の困りをアイデアに変えるハッタツソンに興味が出たっていうのがきっかけです。
ハッタツソン2021ではどのようなアイデアが生まれ、今はどのように発展しているのでしょうか?
仲田:
元々は働いている発達障害者の支援をしていきたいという思いがチームメンバー全員の根底にありました。
話し合いの過程で、そもそも発達障害者は疲れやすい上に自分の疲れを認知しづらく、休憩をすることが苦手だという意見がメンバーからでました。
そこから、最初はタスク管理アプリみたいな話だったけど、それだとありきたりすぎるから休憩に特化しようということで、休憩支援アプリという方向性になりました。
ハッタツソン2021終了後は、チームでいくつかグラントを書いては応募するということを繰り返していましたが中々選考に残れず、現在は改めて我々にしか提供できない価値とは何だろう?そして発達障害当事者たちに求められているものは何だろう?という基本に立ち返りながら模索を繰り返しています。そのためにエビデンスとなるような論文とか、利用可能な技術の洗い出しを隔週で実施しているというような現状です。
ハッタツソン終了後も継続してアイデアを形にするための活動をつづけられている理由を教えてください。
仲田:
本業の研究の方で、疲労に関する調査研究を準備期間も含めて2年ほど前からしています。疲労とか休憩というテーマ自体に元々とても興味がありました。
自分のメインの困りごとが疲労ということもあり、それがアイディアを形にし続けるモチベーションになっています。
当事者が継続的に社会の中で働き続けるということを考えて、これからテクノロジーの進歩や医学の進歩で、1つ1つの特定のな困りごとは解決しても「じゃあ人生全体の中で、それをどう運用していくのか?」みたいな課題が出てくると思っています。その先駆けになれたらいいのかなという思いがありました。
自分は、6年前からストラテラっていう薬を飲み始めた直後に、大学の支援室の先生と能動的に休憩するという練習をしたんです。ある程度コストのかかる工夫や努力を続ける生活を、身体を壊さずに維持できる方法を見つけることについて、世の中で全く語られていないなとも思っていました。
岩佐:
コロナの影響で業務がリモートワークへ急速に移行していく中で、自分で自分の集中力を管理することが非常に問われるようになってきたにもかかわらずそれが難しくて…。
タスクの優先順位は分かっても、どのタイミングで休憩していいかがわからないのでダラダラ仕事をしてしまったり、集中力が切れてしまってワークライフバランスが崩れていく。
「どうやったらその課題が解決していくか?」ということと、その方法を色んな人に共有できればという思いがあります。それをエンジニアであるからには技術の力で解決出来たら、届ける先もかなり増えるかなと思って続けています。
山口:
私はそもそも休憩と疲労というところで悩んで工夫を重ねた経験があって、自分なりに工夫して改善はできたのですが、まだまだ改善の余地ありで、もう少し上手く出来るんじゃないかという思いがありますし、同じ悩みを抱える人たちに何か出来たらいいなと思っています。
疲労というのは感覚的なもので一人一人感じ方や考え方が違う。それを一並びに考えられないな、と自分の中で強く感じていました。なので、疲労とか休憩の仕方、働き方に関しても人それぞれベストな形を探りながら、サポートと考え方を普及出来たらいいなと思って続けています。
ハッタツソンの参加を通じて、新しい気付きや変化があれば教えてください。
仲田:
一つ目は障害の事をオープンにしながら、安全だと感じられる場で、教育研究業界でない人と一緒に仕事をする体験が得られたことです。言い方での配慮なども凄く勉強させていただいたなあと思っています。
二つ目は、アイデア自体が初めてじゃなくてちょっと被っていても「選択肢を増やすことの重要さ」という考え方に触れられたことです。研究の場では本当に些細な事でも世界で初めてじゃなきゃいけないんですが、早さで競うだけではないやり方もあるなと知れて、自分の普段の生き方、研究以外の活動にも力を入れていることについても自信をもらったなと思います。
岩佐:
ハッタツソンは発達障害に関して社会の課題を解決していきたい同士のマッチングプラットフォームとしてすごく良かったなと思っています。「発達障害者に対して何ができるのか?」ということを考えているチームが世の中にこれだけある、ということも私はあまり知らなかったです。
例えばコンダクターや発達障害者に向けたお薬はじめてガイドなど、「当事者が実際に活動をしてプロダクトを出していることが、凄く勇気を貰えるんだなあ」と思いました。
山口:
自分は仲田さん岩佐さんのコンビネーションを間近で見て、議論や作業をして関われたことが凄く良かったなと思っています。それぞれ得意なことと苦手なことがあり、苦手なところを補完しあってる印象でした。
もう一つは、ハッタツソンの中で流れる雰囲気が凄いなと思いました。ベースラインの助け合いが自然にあって、助け合うのは当たり前だよね?っていう感覚が皆さんの中に流れている感じがして。そういった雰囲気が好きだなと思いました。
休憩支援アプリ「リッスル」という形で開発を進められていますが、今後の展開について教えてください。
岩佐:
発達障害者って皆さんけっこう特性がバラバラなので、「休憩を積極的に支援することが本当に包括的に障害者を支援できるのか?」というところはチーム内でも議論になっています。睡眠がしっかりとれていないと昼間に休憩してもあんまり意味がない部分もあるし、より問題理解を深めていった中から、本当にあるべき解決策を慎重に出していきたいと思っています。
仲田:
私自身はちょっと岩佐さんとの考えとは違っていて、自分たちだからこそ出来ることについて模索しているところです。それは技術じゃなくても、アイデアでも良いと思うんですけど。自分たちだからこそ出来ることがあったほうがいいのかな?それは何なのかな?と考えているところです。
山口:
今、チームの状況は、議論したものを作るというよりは「ここで本当にいいのか?」って立ち止まって考える必要がある気がしています。休憩支援で解決、当事者がより快適に働けるようにするというねらいの中で、そもそも携帯をアプリを使えない自分みたいな人間もいるわけです。
そういった事実も踏まえて、アプリなのか?解決策をどう設計するのか?一緒に考えなくちゃいけないのかなって思っているところですね。
最後に、今後のハッタツソンに期待することを教えてください。
山口:
自分はこの繋がり自体をより広く継続できていけたらいいなと思っています。ここに参加した人たちがちょっと活動をしながらも繋がっていて、そういった繋がり自体が大きくなっていくのを期待しています。
仲田:
自分はどうしても人との繋がりが続くっていうのを苦手に抱えていたり、繋がりを作りたい!繋がったままでいたい!でもどうしたらいいかわかんないな…っていうときに、ハッタツソンが人と話すきっかけになることに凄く感謝しています。なので他の回のハッタツソンの人とも同窓会みたいな感じに出来たらなと思っています。
岩佐:
いいプロダクト案が浮かんできたときに、そこを実現するための支援みたいなものがあると更に良いのかなと思っています。資金的な支援みたいなところというより、人的な支援というか。一旦ゴールまで持っていく、というところを一緒にやっていけるようなパートナーみたいな会社などの存在があるといいのかなって思いました。
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