空間認知に関する困りごとにアプローチする「LOOVIC」とは?
周囲からは分かりづらい障害特性の一つに「視空間認知障害」というのがある。目が視えているにも関わらず、モノの認識や道具の操作が苦手、よく道に迷ってしまう、方向感覚が分からなくなることがあるといった特性がある。この特性は、主に発達障害や高次脳機能障害、軽度認知症を抱えている方々にみられることが多い。自身の息子が視空間認知障害の当事者であることからそのような特性を持つ方の移動に関する困りごとを解決しようと取り組んでいるのがLOOVIC株式会社の山中享さんだ。現在、開発中のデバイスや今後の取り組みについてお話を伺った。
《プロフィール》
山中 享(やまなか とおる)
LOOVIC株式会社 代表取締役
ものづくり企業、国内外テック大企業、テックスタートアップを経験。又、デジタルハリウッド大学院でアート×デジタル×ビジネスの活用法を研究。長男が視空間認知障害の当事者であることをきっかけに移動支援のIoTデバイス「LOOVIC」を発案し事業化に取り組んでいる。
公式サイト:https://loovic.co.jp
Twitter:https://twitter.com/yamanaka_loovic
空間認知に関する困りごととは?
LOOVICとはどのようなデバイスですか?
LOOVICは「3次元空間で移動を実現するルート誘導サービス」です。自分の首に取り付けて道に迷うことを防ぐように、声と振動によって方向を案内してくれるデバイスサービスです。道順を意味する「ルート」と3次元の立方体を表す「キュービック」を掛け合わせて「LOOVIC(ルービック)」と名付けました。
ネッククーラーのようなデバイスに振動するスピーカーのようなものが付いており、これがブルブルと震えて音声と一緒に事前にスマホから設定しておいた道に沿って案内してくれます。音声は骨伝導で「もうすぐ右です」「つぎ左です」というような形で案内してくれます。
骨伝導(こつでんどう)とは耳の穴や鼓膜に直接音声を伝えずに耳周囲の骨等を振動させることによって音声を伝える仕組み
首じゃなくても、メガネ型とか色々あったと思うんですけど、首につける形にしようと思われたのは何故ですか?
いくつか理由があるんですけど、まず私が対象としている方々というのは現代のナビサービスは難しいんです。
このようにスマホの画面を見ることは難しくて、画面に映すものもそうなんですけど「ながら歩き」になってしまうというのがあります。
人にもよるんですけれど、一般の方々以上に周りが見え無くなるという特性を持っている一定の方々がいます。このように画面で見ること自体が画面に集中することによって景色が見えなくて、前から来て歩いている人に対してぶつかってしまいやすい傾向があるのでそれを防ぐため、ということを今やっています。
あとはメガネにも振動をつけたらいいんじゃないの?という話はもちろんあると思うんですけれど、振動されるときに頭であったり、腰であったりお腹であったり足であったり腕であったり色々試したんですけれども首〜方が一番違和感がなかったんです。
頭への振動を連続で受けていると逆にストレスになってくるというのが分かったからです。なので首につけるという今のような形になりました。
なぜ「空間認知」に関する困りごとに着目したんですか?
私の子どもが視空間認知障害という課題を抱えている人なんです。
彼はひとりで外出が出来ないんです。それを人にやさしいテクノロジーで移動の自立支援をしたくてやっています。
彼自身は一年かけてやっと道を覚えたということがあります。具体的に言うと景色が記憶に残りづらくて、外出してもひとりで帰ってこれないとか。一般の方々以上に周りが見えなくなるということで、私のように親や支援する人がずっとそばで移動に付き合ってきました。
「視空間認知障害」と「視覚障害」の違いってなんですか?
視覚障害となると、もっとも優先しなければならないことは、安全であり、目が見えないことに対する視覚補助(例えば、前から人が来ていることや、車が来ている、そして段差があること)などです。
ですから、最新の技術では、目が見えない代わりに画像解析ができるカメラなどで見識することで、人や車を回避し衝突する安全が求められています。
一方で、視空間認知障害の方には、迷うから、できる限り迷わないようにするとにかく優しい直感的なナビ技術が求められます。
制度上の移動支援だけでは解決できない問題にアプローチしていきたい
移動する時間があれば本人に対して、もう少し違うサービスがあれば、親としても負担が少し離れていくことになればいいなと思ってはいたんです。
ガイドヘルプサービスっていうのはもちろんあるんですけれど、この人たちは対象外なんです。
ちょっと意外かもしれないんですけれど、もちろん完全に障害だという形で扱われればいいんですけれども彼らはグレーゾーンで周りから苦手と気づかれない人たちです。
つまり彼らは対象外なんです。
「盲学校に通いますか」とか、「養護支援学校に通っています」そんなことでもないので出来る限り一般の方々と同じように生活していきたいんですけれど、それが本人のプライド、もしくは親としてのプライドもあって一般の方々となるべく近いところにやっていこうとするときに、それがなかなか叶わなくて苦手がどうしても固定してしまったりしていって、家族の支援しかないという事をずっとやってきたことから空間認知を解決できるような移動サービスが出来ないかと考えた事から、今取り組んでいます。
今後のLOOVICの取り組みについて
現状のLOOVICについて教えてください
現状は今、開発をしているところでありまして、まだ途中のプロダクトでこんな感じのプロダクトです。肩に掛けるようなデバイスで、この先は大量に同じものとして生産できるように小型化をしていこうと開発に取り組んでいます。
現在、プロトタイプを空間認知の当事者の方に体験していただき様々な声をいただきながら開発を進めています。
体験した当事者からはどのような声をいただいてますか?
体験いただいた方からは、「ぜひ使いたいです」という声を頂いています。
ただ、迷うってことに対してはグラデーションがあって空間認知が比較的強いのか、凄く強いのか、もしくは弱いのかめちゃくちゃ弱いのか、様々な段階があるので全て当てはまるわけではないので当事者を探すのに苦労しています。
今後どのような形で開発をしていく感じでしょうか?
出来る限り多くの声を頂きながら本当に無ければならないという人たちに届けられるサービスの開発を目指していて、本当に困っている方々から解決しようと取り組んでいます。
この方々が外に出て自分たちで自立できるようにしていこう、というようなところを作り上げたいと思っています。
自立とは何かというと、子どもの頃ならば助けてくれる方々がたくさんいらっしゃいますけど、大人になるとなかなか助けてくれる人が少なくなってしまう。
そういう成長過程の中で、自分の力で社会に出ていくようにトレーニングをしていく。
親がベッタリ張り付いてしまうと何か出来ないといえば誰かが助けてくれるのが自然になりすぎてしまって、自らの力で自立していく力を大人になる前に作り上げていきづらくなってしまうので自分の判断で自分が外出できる仕組みのデバイス開発に取り組んでいます。
そして今はガイドヘルプの事業者さんが、そういった当事者のことをよく御存じでいらっしゃるので、こういった方々から「この人は人でサポートした方がいいな」とか「この人はデバイスを使える余地があるのではないか」というところをまずは作り上げていけるような社会にしていこうということを考えています。
でも、その前に移動自体がスムーズではないのでいつでも移動が可能な体制を作ってくれるようなガイドヘルプサービスがあるのですが、半月や1か月前など、予め予約しなければならなかったり、一緒についてくれる人の相性だったりとか、あとはもし使ったとしても費用の課題であったりだとか、いつでも気軽にすぐ使えるような体制ではないので、まずは外出したいときにすぐ外出できるようにしていきたいと思っています。
移動支援というか親がついて行ったりだとかしていて、働ける場所に自らの力で移動できることが多くの職場、たとえば派遣会社でも仕切りを持っていて、「それが出来なければ採用しません」みたいな形で足切りになってしまっている現状があるので自分自身で職場に行けるように、そして働ける方々を増やしていきたいです。
そうすると経済的に国内だったり価値を多く生んでいくんじゃなかろうかと考えております。
当事者以外にも使えるようにしていきたい
私が子どものそばにいて感じることは「本人たちは、特別扱いされたくない」なんですよね。
一般の方が使っている中でなじみながら使う、ということが彼らの強い意志になってくるので逆に当事者だけじゃなくて皆さんが一般に使っていただけるからこそ、彼らが「使いたい」という風なものになってくるんです。
又、ほかの困りごとがある方で例えば聴覚障害の方は、耳の苦手があるので、できる限り視野を景色に集中しなければなりません。そうなると、ナビを見ながら歩くことはもっと危険であることから、利用に対して高い評価を頂戴しています。さらには当然音声ナビも使えないことから選択肢が少ないのですね。このように触覚で聴覚を代替して案内ができることは、聴覚障害の方にとってはとても嬉しい技術になります。
さらには、車椅子の方も手が離せないのにナビを見なければならないって同時作業は辛いですよね。
手が離せないことは、ガイドヘルパーさんのような介助者にとってもとても求められる技術です。
課題解決は当事者なんですけれども一般の方と両立しながら使っていけるような社会にしていきたいと思っています。いわば「インクルーシブデザイン」のような形でやっていこうと思っています。
寄付型クラウドファンディングを実施中
「LOOVIC」はこれまでになかった視空間認知障害の方々の課題を解決する世界初(※1)のデバイスです。
事業を立ち上げるには、多くの資金・支援が必要です。金融機関の方々などお力添えをいただかねばなりませんが、一つ一つの皆様の声や体験からのフィードバックが、その製品化に向けた説得力に繋がります。
視覚障害の方の症状は、だいたいのイメージはついても、視空間認知障害って良くわからない。という方の声も多く聞こえてきます。この視空間認知障害は我々の空間認知の能力のグラデーションでしか無いのです。悩む人もいれば、そうでない人もいます。ただ、いままで明確な解決法が世の中に存在していなかったために、デバイスが無い生活が当然です。しかし、いまここに解決できるデバイス・システムが存在しようとしているので、今後は、これが無くなってしまっては困るという時代が必ずやってまいります。
みなさまに、この製品が必要だ。この製品が無くてはならない。と言ってもらえるようにするため、お一人様でも多くの声を集めるために寄付型クラウドファンディングを2022年7月31日まで実施しています。どうかご支援をお願いいたします。
【関連リンク】
※1
特許調査によりわかっており、様々な専門家に確認、独自調査をした結果です。
LOOVICに関する特許は、出願済みであり詳細は公開前となります。
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